大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1065号 決定 1968年7月10日

申立人 菅井規矩雄

右代理人弁護士 荻野定一郎

同 滿園勝美

同 今野昭昌

相手方 荒井いね

<ほか七名>

主文

申立てにかかる増改築を許可する。

申立人は相手方等に対し、金一〇〇万円を支払え。

理由

一、申立人は昭和二七年一一月一六日荒井辰五郎から、その所有にかかる目黒区自由ケ丘一丁目一四七番の七所在宅地二九八・二一平方米(九〇・二一坪)のうち約六〇坪を、次に昭和二八年三月四日その残り約三〇坪を、非堅固建物所有の目的で期間の定めなく賃借りをし、その地上に家屋番号一四七番三鉄筋コンクリート造陸屋根二階建医院兼居宅床面積一、二階とも四九・五八平方米(一五坪)(甲建物という)と家屋番号一四七番四木造ラスモルタル塗スレート瓦葺平家建居宅床面積二九・七五平方米(九坪)(乙建物という)とを建築所有し、ここに居住して医院を開業してきたが、狭溢となったので、右乙建物を取り毀した上で、そこに鉄筋コンクリート造三階建住居兼医院床面積一、二階各四二・九四平方米(約一三坪)、三階四七・七八平方米(約一四・四五坪)を新築する計画を建て、その工事に着手して相手方等(荒井辰五郎は昭和三四年六月死亡し、その共同相続人の一人荒井政雄は昭和三七年一一月死亡し、結局相手方等が相続により本件土地の共有者となり、申立人に対する共同賃貸人の地位を取得した)の承諾を求めたが、拒絶されたので本申立に及んだものである。

二、本件記録によれば、右の事実のほか、次のとおりに認めることができる。

1、相手方は、申立人が前記甲建物を建築したことは契約違反であり、かつ、本件改築について相手方の承諾がないにもかかわらず工事に着手したことは増改築制限の特約に違反するとして、昭和四二年九月一二日本件借地契約を解除し、同年一〇月二六日本訴を提起した。そこで、本件借地権の存否が問題となるが、当裁判所は申立人が甲建物を建築したことについて、荒井辰五郎は黙示の承認を与えたものと認め、本件改築工事に着手した点についても、これをもって契約解除の理由とはなし得ないものと認める。よって、相手方等による本件賃貸借契約の解除は、その効力がないものとして、以下判断をすすめる。

2、本件改築計画は、法令上及び本件土地及び周囲の土地利用上不当とすべき点はみあたらない。

三、よって、本件改築計画は、これを許可すべきである。そこで、次に本件資料に基づき、附随の処分について検討する。

1、申立人は本件土地を前記のとおり二回にわけて借り受けているが、その経緯からみて、借地契約の存続期間は後の契約の時から計算すべきものと解するのが相当である。

本件借地契約は、期間について定めのないものであり、当初非堅固建物所有を目的とする契約であったが、後に前示のとおり堅固建物所有の目的に変更されたものと解すべきであるから、本件借地権の存続期間は昭和二八年三月四日から六〇年というべきである。

2、申立人は借地契約にあたり、六〇坪につき金三五万円、三〇坪につき金二一万円を権利金として支払っている。右金額は当時の更地価格の六割乃至七割に相当する。

3、鑑定委員会は、本件土地の更地価格を三・三平方米あたり一七万二、〇〇〇円と評価し、本件借地契約が既に堅固建物所有目的に変更されているとすれば、(期間を昭和二七年一一月から六〇年として)申立人に二六万一、八〇〇円の支払いを、裁判によって借地条件を変更するとすれば、申立人に一五五万円(更地価格の一〇%)の支払いをさせるのが相当であるとしている。

当裁判所は右鑑定委員会の意見と前示借地関係の経緯とを総合考慮し、本件土地の価格の約七%にあたる金一〇〇万円の支払いをさせるのが相当であると認める。

以上により、主文のとおり決定をする。

(裁判官 西村宏一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例